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Modern White Structure

計画班員

Team members

メンバー: スタッフのご紹介

船山 典子(京都大学)

針状ケイ酸体を細胞が産生、運搬、繋げるカイメン骨片骨格形成機構

カイメンの体を支持しているのは、多数の微細なガラスの針(骨片)を3次元に組み上げた骨格であり、その骨格が体全体の形を決めている。船山は、骨格の形成原理を解明するため、骨片のライブイメージング解析と細胞同定を行った結果、骨片の製造、運搬・配置、建て・接合という作業工程を、それぞれは限られた機能を持つ細胞が流れ作業で行い、大構造(骨格=体のかたち)を構築していることを見出した。まるで、人間が行う建築作業のようである。この、カイメン細胞が行う建築作業は、一般的な形態形成の概念である「細胞がブロックとして積み上がり形を作る」とは、全く異なることから、発生学における新たな概念の提示につながる。本研究では、まだ謎の多い各細胞の挙動を詳細に解析し、統率の取れた「建築作業」を可能にする分子機構の解明に取り組む。さらに、秋山(数学)と近藤(実験、魚のヒレ)と共同研究を行うことで、この新規コンセプトの形態形成機構が「どこまで多様な形態を生み出せるのか」、「高等生物の細胞にも同じ機能があるか」を追求する。

近藤 滋(大阪大学)

コラーゲン針状結晶の組み立てによる魚類ヒレの形成

動物の後期発生では、細胞のスケールよりも、はるかに大きな器官が正確に作られる。一方で、細胞は物理的に脆弱であるため、それだけでは、器官の構築に必要な力学的サポートを供給できない。そのため、後期発生では「骨(外骨格・内骨格)」が形態形成の主役となるが、細胞が骨の「形」を作る原理は、ほとんど解っていない。ゼブラフィッシュヒレの先端には、アクチノトリキアと呼ばれる長い(~300μm)コラーゲンの棒状結晶体が、隙間なく並んでおり、それが足場として働き、物理的に先端部の形状を維持している。また、少し内側では、アクチノトリキアは一定の間隔に束ねられ、そこに骨芽細胞が骨化を行うことで、骨のパターンを作り出している。すでに、3種類のヒレ細胞(基底上皮、間葉系、骨芽細胞)が、アクチノトリキアを「建築資材」のように扱い、分業体制で、作成・整列・骨化を行うことで、ヒレ骨パターンを作り上げていることを見出している。本研究では、その過程の完全な理解、インビトロにおける再現、計算機シミュレーションによるインシリコ再構成により、これまで不明であった後期形態形成現象の新たな概念を創出し、将来の再生医療の基礎を作ることを目的とする。

新美 輝幸(基礎生物学研究所)

分担者:後藤 寛貴(静岡大学)

『折り畳みと展開』による三次元形態形成機構の解明

節足動物の体は、表皮細胞から分泌されるキチン繊維とタンパク質から構成される外骨格に覆われている。この外骨格は、剛性が大きいため防御力は高いが、一方で、伸縮性や加工性には乏しい。そのため、成長時には脱皮により一回り大きいものと置き換えられる。新しい外骨格は、古い外骨格の内側で「小さく折り畳まれた」状態で作られ、その折り畳みが展開することで、サイズの拡大と、折り畳みパターンに依存した「変形」が起きる。典型的な例であるカブトムシの角の場合、角を作る新しい外骨格(角原基)は、非常に密に折り畳まれた状態で幼虫頭部に格納されている。この原基が蛹化時に短時間で膨らみ、巨大な角が出現する。すなわち、外部形態は、新しい外骨格の折り畳みパターンとしてコードされているのである。本研究では、この発生様式の核心である折り畳み構造がどのように作られるのかを、カブトムシを研究対象とし、細胞・分子レベルで明らかにする。また、多様な形態を作るツノゼミの角の解析から、折り畳みと3D形態をつなぐ一般則を導き出し、この原理で、任意の3D構造を作れることを示す。

大澤 志津江(名古屋大学)

分担者:田尻 怜子(千葉大学)

昆虫外骨格形態を建築するECMリモデリングとその分子機構の解明

外骨格生物の多くでは、脱皮前の外皮を折り畳んだ状態で作り、脱皮後にそれを展開させる。その時、体の拡大と変形が同時に起きるが、変形は、折り畳みのパターンに依存する。つまり、外骨格の形態形成は、脊椎動物のように連続して徐々に起きるではなく、「折り畳みパターンによる一体成型」方式なのである。この方式による形態形成は初期胚発生の原理とは大きく異なるため、現在でもその詳細はほとんど解っていない。その解明のためには、マクロ(折り畳みと3D 形態の関係の解明)から、ミクロ(上皮細胞の挙動、クチクラの性質、遺伝子の機能)まで多岐にわたる知見が必要となる。本研究グループは、分子遺伝学的解析およびライブイメージングに有利なショウジョウバエを用い、折り畳みの形成と展開の分子レベルの調節機構を、主にミクロレベルに焦点を当てた解析を行う。得られた結果を、主にマクロレベルの解析を行う新美班の研究成果と統合させ、数理モデルとも組み合わせることで、「折り畳みによる一体成形」の基本法則を明らかにすることを最終目標とする。

小沼 健(鹿児島大学)

表皮が分泌する動物性繊維によるハウスの3D建設

オタマボヤは、ハウスと呼ばれるセルロースの膜でできた「袋」の中に棲む。ハウスは、ダクトやフィルターが、プランクトンを集めろ過する機能を持つように配置された、複雑構造を持つ 。このハウスをどうやって作っているかが、全くの謎であり、それを明らかにすることが本研究の目的である。
ハウスは消耗品であり、オタマボヤは1日に何回も新しいものと取り換える。小さく折り畳まれたスペアのハウスは、2-3枚重ねた状態で保持されており、一番外側のものが、わずか数分で膨らみ、新しいハウスとなる 。ハウスに細胞は含まれないので、何かがこの複雑な構造を作らねばならないが、セルロースを分泌する約2,400個の表皮細胞は、平面的 に並んでいるだけなので、複雑な3D構造を作る「鋳型」のような物が、どこにもない。
この謎に満ちたハウスの製造原理を解き明かすために、オタマボヤの形態形成を研究してきたが、最近、解決へのヒントを発見した。電顕観察によれば、ハウスはセルロース繊維の織り物であり、織り方の違いが部位ごとの機能を作っているらしい。さらに、展開時には、織り方や糸の構造にダイナミックな変化が起きているのである。
細胞が、どのようにして織物(編み物)を作るか?という新しい観点から、ハウス形成の謎に迫る。生物学としての新奇性は極めて高く、また、解明されれば、新しいものつくりの技術につながる可能性がある。

井上 康博(京都大学)

生物の面構造を作る折り畳みと展開の力学

3D形状とは、物体表面が作る形であることから、器官の形態形成は面の形作りといえる。これまでに、細胞集団の面の変形を表す3Dバーテックスモデルを応用し、形態形成の理解に力学的観点から貢献してきた。これまでに、3Dバーテックスモデルを、昆虫の外骨格形態の形成の解析に適用し、幼虫期の細胞集団の面の折り畳みとして外骨格形態が格納され、その物理的な展開によって3D形態が現れることを示してきた(新美、近藤と共同)。しかし、昆虫が、3D形態をどのようなルールで折り畳み図面に変換し、それをどのような素過程によって、面に一体成形しているのかは未だ謎である。本研究では、昆虫の外骨格形状を対象に、面構造を作る「折り畳みと展開」の力学的な原理を明らかにすることを目的とする。3Dバーテックスモデルを発展させ、器官レベルの大規模スケールの物体変形を解析するシミュレーション基盤を確立し、「折り畳み図面への変換と面への一体成形」の謎に迫る。

秋山 正和(富山大学)

生物による針状素材を用いた建築原理の数理

複雑な生命現象の理解にこそ、本質のみを抽出した数理モデルが有効であると考え、「現象を出来るだけ少ない変数の数理モデルで表す」という手法を用い、これまでに、実 験研究者との共同研究成果を挙げてきた。形態形成は、生命現象としての複雑さに加え、3D形態という幾何学の複雑さを含むからこそ、それを理解するためには、現象を少ない変数の数理モデルで表現することが有効である。本研究では、カワカイメンとゼブラフィッシュのヒレ骨形成を対象とし、「剛性の高い棒(針)状素材の組み立て」を表す数理モ  デル化を行う。これらの系では、「素材は変形しないこと」、「細胞の役割は素材の操作であること」と捉えられることから、単純化が行える。この考えに基づき、カワカイメンとヒレ骨の系を対象に、素材の組み立てを表す基本的な数理モデルを確立する。コラーゲン、骨などの剛性の高い素材が形態の基礎になる現象は一般性が高く、本数理モデルの発展により、さらに広い形態形成現象に適用させることができると期待している。

山崎 慎太郎(早稲田大学)

分担者:坂下 美咲 (東京理科大学)

構造最適化による形態形成原理の解明とその工学応用

構造最適化は、工学的な設計要求を満たすように、構造物の最適な形態を数理的根拠に基づき創成する方法論である。椅子のフレーム構造や2次蓄電池の電解液流路を構造最適化で設計すると、それぞれ、骨梁構造やカワカイメンの水管と似た構造が得られる。このことは、生物進化により獲得された形態が、ある種の最適化の結果として理解可能であることを示唆している。本研究ではこの点に着目し、実験系班員が対象とする生物の形態形成を構造最適化で再現することで、生物が取る形態の数理的な解明を行う。さらに、生物の形態形成原理を工学に応用することにより、工学の常識を超える複雑な内部構造を備えたインフレータブル構造物(仮設住宅に応用可)や新しい3Dプリンタの造形方式など、革新的な工業製品の創成を目指す。本研究領域の実験系班員と連携し、既に魚類椎骨やオタマボヤハウスの形態形成の仕組みを構造最適化により解明しつつあり、本研究を推進する準備は十分整っている。

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